【書評】 目の見えない人は世界をどう見ているのか 〜世界の別の顔を覗く〜

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耳で「見る」、目で「聞く」、鼻で「食べる」、口で「嗅ぐ」、手で「読む」 —–

わたしたちには、耳、目、鼻、口、手といった器官が備わっています。

東京工業大学リベラルアーツセンター准教授・伊藤亜紗さんの著書「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を読んで、そういった器官にはわたしが思っている以上に多彩な使い方があるのだということを教えてもらいました。

 違いを面白がる

この本は、著者の伊藤さんが視覚障害者やその関係者の方に対して行ったインタビューやワークショップ、さらには日々の何気ないおしゃべりから、目が見える伊藤さんなりにとらえた見えない世界をまとめたものです。

世界の別の顔を知ることは、同時に、自分の体の別の姿を知ることでもあると伊藤さんは言います。

さらに伊藤さんは、こうも言っています。

障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使っていないものを使っている人です。障害者の体を知ることで、これまでの身体論よりもむしろ広い、体の潜在的な可能性までとらえることができるのではないかと考えています。(中略)

助けるのではなく違いを面白がることから、障害に対して新しい社会的価値を生み出すことを目指しています。

面白がるとは決して変な意味ではなく、純粋な好奇心を持って見える世界と見えない世界の違いを知り、「そっちの世界はそうなってるんだ!」とその違いを楽しむということです。こういう考えがもっと広まってほしいなぁと思います。

「見る」ということ

「見る」と一言で言っても、そこには「読む」「眺める」といったサブカテゴリーのようなものが存在します。

そしてそういった能力は「目」という特定の器官の機能ではなく、別の器官でも同じ役割を果たすことができるのです。

例えば、点字を使えば「手」で「読む」ことができます。

周囲の音を聞くことで、「耳」で「眺める」ことができます。

わたしはたまたま目が見えるから目を使っているだけで、目の見えない人は「手」や「耳」でわたしと同じことをしているのです。

他人の目で見る「ソーシャル・ビュー」

また、目の見える人が見たものを言葉で伝えることでも、見えない人がものを「見る」ことが可能になります。

例えば茨城県の水戸芸術館では、「セッション!」という企画で目の見える人と見えない人が一緒になって美術鑑賞ができます。

作品の前にみんなで立ち、その作品について語り合いながら鑑賞するのだそう。

目の見える人が見たものを言葉にし、それに対して見えない人が質問を投げかける。積極的に声を出してグループの仲間とやりとりをしながら作品を鑑賞することから、本の中ではこれを「ソーシャル・ビュー」と呼んでいます。

「情報」と「意味」の違い

このソーシャル・ビューには「情報と意味」というテーマが潜んでいます。

「情報」とは客観的なもので、例えばその絵がいつ描かれたものか、人物画であればどんなポーズ、表情で背景に何があるかといったものがそれにあたります。

一方で「意味」とは主観的なもので、例えばその絵を見て何を思ったか、どんな印象を持ったかといったものがそれにあたります。

ただ「情報」を知るだけであれば、本を読むだけでも事足りる。見えないもの、つまり「意味」の部分を共有することにソーシャル・ビューの面白さがあるのだと伊藤さんは言います。

見える人どうしであれば曖昧に済ませてしまうような感覚でも、見えない人に対して説明する場合はそれを頑張って言語化する必要がある。そうすると必然的にその曖昧な感覚を見つめ直す必要が生じ、その結果初めて見えてくること、気付けることがあるのです。

さらに他人の見方で見ることの面白さにも気付ける。それは、ひとり、あるいは目の見える人同士無言で鑑賞するのとは明らかに違う鑑賞体験です。

見えないという障害が、その場のコミュニケーションを変えたり、人と人の関係を深めたりする「触媒」になっている

障害があることで、生産的な活動が促進されるのです。

まとめ

この本を通して、わたしにとって世界の別の顔である「見えない世界」の一部を垣間見ることができました。

伊藤さんはこの本の終わりに、こう述べています。

健常者が見えない人の価値観を一方的に決めつけるのが一番よくないことです。言葉による美術鑑賞の実践がそうであったように、「見えないこと」が触媒となるような、そういうアイディアに満ちた社会を目指す必要があるのではないでしょうか。

わたしもこの考えに賛成です。

そしてそうした社会を目指すために、わたし自身が別の世界の人と直接的に関わっていきたいと感じました。

ここではこの本の魅力の本の一部しか伝えられていません。本を読んで得られた気付きは、本当にたくさんありました。

興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。

関連情報

ソーシャル・ビューを体験してみたいと思い調べてみたので、その情報をみなさんにもご紹介しておきます。

視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ

本の中でも紹介されている、現在もっとも精力的に活動しているソーシャル・ビューの主催団体だそうです。首都圏の美術館を中心に、すでに30回以上のワークショップを開催されているとか。

今月末の1月31日に東京都現代美術館で美術鑑賞ワークショップが予定されています。

参考:視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ

ダイアログ・イン・ザ・ダーク

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、 暗闇のソーシャルエンターテインメントです。

参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、 暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験します。

その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、 そしてコミュニケーションの大切さ、人のあたたかさを思い出します。

本に登場する全盲の木下路徳さんもアテンド(案内役)をなさっているようです。

参考:ダイアログ・イン・ザ・ダーク

対話のある家

関西圏だと、こんなのも。

参考:対話のある家 – ダイアログ・イン・ザ・ダーク | 住ムフムラボ

調べてみたら、次から次へといろいろな情報が出てきます。知ろうとする気持ちがあれば、見えるものも変わってくるのですね。

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